裁判官と公園

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夜遅くの出来事
公衆便所から出てきた男
手を拭く素振りもみせず
足早にその場から離れていく
右を見て左を見て上を見て
男は隣町の裁判官だった

この公園は危険なことで有名だった
裁判官は我慢できずトイレに入り
逃げるようにその場を後にする
公園の出口まであと50mの所で
植え込みの中から助けを求める声
誰かが誰かに襲われている

裁判官は聞こえないフリをして
歩行速度をグングン速める
通報することも助けを求めることも
色々な手段が取れたはずなのに
彼は関わることを極端に嫌った
ただでさえ忙しい毎日
突然のトラブルを徹底的に避けてきた

裁判官が公園から出てきた
駅まで続く街灯は
消えるか消えないか
微かに光を放っている
植え込みの件を暗示しているようだ
悪人の裁判官もいる世界

彼は優秀な裁判官だった
評判はすこぶる良かった
しかし己が誰だかバレていなければ
平気で弱者を切り捨てる男
世間の評価と実態が乖離している
そんなことは良くあること
それでもイメージ先行が拭えない
善人の犯罪者もいる世界

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