主戦場vol.2

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主戦場の記事初めての方へ

映画「主戦場」の記事は今の所3日連続ですが、不定期で書く予定です。初めて主戦場に関する記事を読む方は、最初から順番に読むと読みやすいと思います。

人権vs人権

映画序盤で印象に残っているシーンがある。韓国はソウルの広場で挺対協(現・日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯/略称・正義連)の人々や市民が集まり日韓基本合意に反対していた。そこには韓国の国旗も日本の国旗も見当たらなかった。

撮影者が国旗が何故ないのか代表の尹美香さんに聞くと「これは国家vs国家ではなく、人権vs人権なんだ」と言っていた、なので国旗は持ってこないようにお願いしているそうだ。尹美香さんは色々噂のある人物だ。私は詳しく調べているわけではないので言明は避けておく。色々噂はあるが、「国家vs国家ではなく人権vs人権」という言葉は私の胸に強く響いた。

慰安婦に対する認識の違い

劇中では何度か、日本の若者が慰安婦という言葉すら知らないシーンが出てくる。その理由として登場するのが”新しい歴史教科書をつくる会”(以降、”つくる会”)だ。是非リンク先のHPも見てほしい。

一般社団法人新しい歴史教科書をつくる会として、日本史検定講座なるものも実施されている。なんと九期生募集中らしい。この講座の校長は加瀬英明である。主戦場で加瀬は「太平洋戦争に日本が勝ったからアメリカでは黒人解放運動が起こった」と主張していた。吉見義明氏の名前も知らなかったし、著書も読んだことがないと言っていた。それなのに慰安婦は性奴隷ではなかったと主張する、その自信はどこからくるのであろうか。九期生目が募集されているなんてにわかに信じがたいが、これが現実なのであろう。背筋が凍る思いだ。

話を戻そう。”つくる会”の結成には藤岡信勝が大きく関わっている。藤岡は元々共産党員だったが湾岸戦争後保守へ転身。西尾幹二らと”つくる会”を結成したのである。”つくる会”は特に中学校社会科の歴史教科書は自虐史観に毒されていると批判した。1997年に出した趣意書の1つに以下のようなものがある。

  • 冷戦終結後は自虐的傾向が強まり、現行の歴史教科書は従軍慰安婦のような旧敵国のプロパガンダを事実として記述している。

それでは、現在の中学校歴史教科書から慰安婦の記述が消えているのか確認していこう。記載がないのであれば、日本の若者の問題意識が低くても仕方がないのかなとは思う。情報を遮断された彼らもまた被害者なのだ。

教科書から消される慰安婦

私は以前中学校で社会科の教員をやっていた。幸い家に教科書が何冊かあった。直近まで働いていた自治体は横浜市だったので、悪名高い育鵬社の教科書だった。しかし探しても育鵬社のものだけ見つからない。辞めたと同時に捨てちゃったかな。

ちなみに教科書は学校から支給されるが返さなくてはいけない。私は書き込んだり史料として取っておきたかったので、自分が使う教科書は有隣堂などで取り寄せて自費購入していた。なので育鵬社の教科書もあるはずなのだが、少し見当たらないので勘弁。

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左から清水書院・東京書籍・浜島書店(史料集)
この3つには慰安婦の記載は確かになかった

中学校歴史教科書では清水書院と東京書籍があった。平塚先生にいただいた史料集にも記載はなかった。それでは高校の教科書はどうだろうか。”つくる会”がとりわけ問題視していたのは中学校の教科書である。流石に高校の教科書には載っているであろう。

山川詳説日本史B(2012年)
ヤマカワ日本史用語集(2014年)

山川出版社から出ている「詳説日本史B」には慰安婦の記載があった。本文中ではなく注釈ではあったが。義務教育では知らせる必要がないということなのだろうが。手元にある一番新しい副教材を確認してみた。

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山川出版社
詳説日本史図録(2016)

なんと山川出版社より出されている「詳説日本史図録第7版」には、慰安婦の記載がないのである。最新版の山川出版社「詳説日本史B」も確認しなくてはならないな。今度本屋さんに行ったら見てこよう。これでは慰安婦が強制であったか、自由意志であったかという議論が国内で盛んになるわけないではないか。今教育を受けている多くの子たちは存在すら知らされていないのだから。

教科書に慰安婦の文字が掲載されると、余計に揉めてしまうから記載を避けているだけなのだろうか。近い将来そもそもなかったことにされたとしたら、とてもやりきれない。

現在の教科書は検閲されているようなもの

現在の義務教育の歴史教科書に”慰安婦”の文字が記載されていないことは確認した。では、いつ頃からなくなっていったのだろうか。

1996年に”つくる会”が結成されたことは述べた。そこから”歴史修正主義者”たちの教科書改革が加速していく。翌1997年には”日本の前途と歴史教育を考える会”が自民党内で結成される。前身の”日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会”では安倍晋三が事務局長を務めた。

時は少し経ち2012年第二次安倍政権のとき、教育基本法が改正された。教科書は学習指導要領に沿ってつくられる。そして教科書検定で合否を出すのは文部科学省である。政権の意図しない教科書を作ってしまい、不合格になると倒産してしまう会社もあるだろう。これ以降、中学校社会科の歴史教科書から「慰安婦」の文字は消えてしまったと、劇中でも指摘があった。

検定不合格の理由が明示されないのだから、最初から国の意図通りの教科書を作っておくとも劇中では語られていた。これではまるで検閲されているのと変わらないと私は思うのだが、皆はいかがお考えだろうか。

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