過重労働で奪われる命
2014年6月、1人の男性が33歳の若さでこの世を去った。ウイルス性の心疾患だった。男性は2009年から格付け本「ミシュランガイド」にも掲載されたことのある、大阪市内の人気フランス料理店にて正社員の調理師として勤務を始めた。連日午前8時ごろ出勤し、閉店後も清掃などで未明まで勤務。時には帰宅後寝ないで出勤することもあったそうだ。毎月の時間外労働は1年間の平均で約250時間。過労死ラインが80時間なので、およそ3倍以上である。さらに多い月では300時間近いこともあったという。
私は学生時代飲食店でアルバイトをしていたが、正社員の人たちは完全週休2日取ることがままならなかった。月に6日休めれば良いほうだ。この男性が月に24日勤務していたとしよう。250時間の残業ということは、毎日10時間以上残業していたことになる。とんでもないことだ。過労で何らかのウイルスに感染してしまい、免疫力がとても落ちていたので心臓まで回り亡くなってしまった。そう考えるのは至って普通ではないだろうか。遺された妻は、大阪中央労働基準監督署に労働者災害補償保険法の遺族補償を求めた。だが、2014年12月大阪中央労働基準監督署は、遺族補償年金を支給しない決定をした。
労働基準監督署の役割
労働基準監督署は厚生労働省の出先機関である。都道府県労働局の指揮監督を受け、主たる業務は法律に基づく最低労働基準などの遵守について事業者などを監督することだ。
大阪中央労働基準監督署の、労働基準監督官は一体何を監督していたのか?監督とは人の上に立ち、指図したり取り締まりをすることだ。過労死ラインを3倍も越えた労働環境に対し、是正勧告はなされていたのか?いなかっただろう。さらに遺族に対し遺族補償年金を支給しないとは、厚生労働事務官は何を考えているのか。何も考えていないのだろう。
労働基準監督署の署長は司法警察員なので労働基準法違反などの被疑事件の捜査を行えるのだが、労働災害の認定すらしていない。労働基準監督署は厚生労働省の出先機関と前述した。すなわち、労働基準監督署が労働災害認定しなかったということは、国が労働災害認定しなかったと同じことだ。過労死ラインを大きく越える1年平均250時間の時間外労働だったのにも関わらずだ。これでは懸命に働いた男性とその家族に対し、余りにも失礼な対応ではないか。
大阪地方裁判所よくやったぞ
亡くなった男性の妻は、ウイルス性の心疾患で死亡したのは過重労働が原因だとして、遺族補償年金などを不支給とした国の処分を取り消す訴訟を起こしていた。大阪地方裁判所の内藤裕之裁判長は、男性の時間外労働が月に250時間に達していたと認定し、「過労で免疫に異常が生じた」として、死亡との因果関係を認めたのだ。一審が出るまでに時間がかかりすぎではないかと思うところもあるが、内藤さんナイスだ!よく言った。大阪にもまだ漢が居たのだな。
それに比べ役人さんたちよ。あんたらは一体なんなんだ。厚生労働省は「判決内容を検討して関係機関と協議する」と言っているみたいだけど、これはどういうことなのだろう?因果関係を認めてしまうと、色々と不都合があるから控訴の相談でもしているのだろうか。
労働者の過労死をなくすために
過労死をこれ以上なくすためにどうすれば良いのだろうか。次のように労働基準法を改正するのはどうだろうか。”過労死ラインを越えて働いている労働者が何らかの病気にかかった場合、企業が治療費全てを払うようにする”のだ。仮に入院が必要になり、働けない期間の生活の保証も企業が行う。そのようにすれば、無茶な残業はさせなくなると思うのだがいかがだろうか。
そもそも月80時間の残業でも異常である。1日平均4時間だからね。私も2005年ころ、月100時間を越える残業をしたことがある。しかも当然のように残業代は支払われなかった。当時はまだブラック企業という言葉もそこまで認知されておらず、現在のように報道番組で取り上げられることも余りなかったと思う。そして、私も無知だったので声をあげることもなく、そんな会社とはさっさとおさらばするだけであった。きちんと知識があれば、毎日出退勤のメモを取り、払ってくれなかった残業代の請求をしたのに…。
なので改正をしても、きちんと厚生労働省が取り締まってくれないと意味がない。その当時も労働基準法はあったのにもかかわらず、残業代を支払わない会社はたくさんあったのだから。そして今でも当然のようにあるだろう。一刻も早い過重労働に対する法整備と、余りにも法を守らない企業が多すぎて大変なのかも知れないが、労働基準監督署の適切な指導を期待する。
コメント
はじめまして。
ブログ、興味深く拝読させてもらいました。
長時間労働のうえの過労死。
亡くなられた本人のみならず、残された遺族の方々を思うと、胸が締め付けられる思いです。
今から10年ほど前を振り替えってみると、私も長時間労働によって命を落としていた可能性がありました。
出版社で月刊誌の編集部員だったころ、一日の労働時間は12時間。それに加え、早朝から夕方までの取材。
常に締め切りに追われ、不眠不休の徹夜は当たり前でした。
筆者の言われていたように、私もブラック企業や長時間労働、過労死などの諸問題がさほど問題視されていなかったこともあり、まったくの無知。思考能力は失われ、ただ与えられた仕事を必死にこなすことだけを考えて生きていました。
そしてそれを続けること5年弱。その結果、神経痛を患って通院するはめになり、服用した治療薬によって重度の薬疹となって長期入院。ケロイドのように全身がただれて命の危険にさらされ、それを治療する副作用により持病が悪化。そのうえ、職を失いました。
私は、命を削ってまでやらなくてはならない仕事はあってはならないと思っています。
そしてそれを強制することもあってはならない。
働き方改革やプレミアムフライデーなどを謳い、見た目は労働環境の是正努力を推進しているかのように訴えていますが、その反動でさらに働かざるを得ず、無理に過酷な労働を強いられる環境が再生産されている現状もあります。
若者たちの低賃金問題、派遣業や契約社員問題がまさにそれで、政治家を含む権力者たちが、社会的弱者を生み出し、そこから脱出できない構造を構築して完遂させようとしているように感じるのは私だけでしょうか。
このエントリーを読み、力や金がある者たちは黙殺・抹殺し続ける、苦しめられている人たちの悲痛の叫びを、あきらめずに何度も何度も社会に投げかけることは必要だと感じました。
ジョニーさん初めまして、さんはんです。
とても丁寧にコメントをいただき、
ありがとうございます。
もう悲しい労働者が生まれるのはたくさんです。
ジョニーさんも10年ほど前、大変な思いをされたのですね。
そして、とても我慢強く真面目な方なのですね。
己の職務を全うしようと5年間も、体に鞭打ち頑張り続けたのですね。
当時は確かにブラック企業…そこまで取り上げられていませんでしたもんね。
長期入院の間、また職を失ってから会社はどこまでサポートしてくれましたか?
しっかりとした対応をしてくれていれば良いのですが。
偉い人たちは耳障りの良いことを言うだけで、
実態は何も変わっていないと思います。
ジョニーさんが言う、社会的弱者を生み出す魔窟のような構造があると私も思います。
私の知人は派遣社員から正規社員になるのに10年以上かかった人もいます。
当然その10年間は正規社員とは人生設計の立て方が違う。婚期を逃した人もいるでしょう。
初めてここでお会いした人から、
こんなに熱い熱い応援のコメントをいただけたのですもの。
あきらめずに社会に投げかけ続けます!
もしよろしければ、今後とも遊びに来てください。
また、他の投稿も見ていってください。
ありがとうございました!
さんはんさん。
返信遅れて申し訳ございませんでした。
さんはんさんのおっしゃること、かなり自分の考えに近いだけでなく、博識でいらっしゃるので、勉強させて頂きたいと思っております。
今後ともよろしくお願い致します。
ジョニーさん。
タイミング良い時でいいじゃないですか。
謝ることなんてまったくないですよ。
応援してくださり本当にありがとうございます。
博識だなんてとんでもないです。
わからないことだらけです。
それでも、どうしても納得できないことがたくさんあるので、
非力ですが発信し続けていきます。
今後とも、どうぞ宜しくお願いいたします。